一昨年から1年半「ひらめきのタネ」というWebマガジンでコラムを書かせてもらいました。
ここのブログでも毎月再掲させて頂こうと思います。
6月は「伝えること」というタイトルで、以前経験した特殊な設計事例の取り組みです。
家を建てることは、何もないところからのスタートです。 住まい手と設計者が「イメージを共有する事が出来るか出来ないか」が大きな分かれ道だと感じます。
特に我々のように個人で設計事務所を運営している設計者は、モデルハウスやショールームがある訳ではないので、なかなか実物を体感してもらう事ができません。
まずは、住まい手の要望に沿って図面を作ります。 分かりやすい図面はどうしたら良いのか?
色を付けてみたり、わざわざ手描きにしてみたり、いまだに試行錯誤しています。
模型を作ることもあります。 特殊な敷地だったら、敷地周辺の建物や環境を含めて作り込むこともありますし、建物自体が難しければ、室内の細かい所まで作り込む事もあります。
設計に際して自分が考えていることを住まい手に伝えるための手段です。
「こうしたいんだけど分かって下さいね」 「こんな間取りで生活に不具合はないですよね」などなど。
完成してから「こんなハズじゃなかった」と言われることのないように、頑張って色んな方法を考えています。
少し特殊なケースを紹介してみたいと思います。 数年前、目の不自由なご夫婦の家を設計する機会がありました。
ご主人は少しだけ見ることができますが、奥さんは全盲でした。 それぞれのパートナーである盲導犬と暮らす家です。
「中庭形式の間取りにしたい」とか「2匹の犬の世話が楽に出来るようにしたい」
とか、幾つかのリクエストをもらって設計がスタートしました。
さて、どうやって間取りを伝えよう? キッチンのシンクの位置や収納のレイアウトはどうやって説明をすれば良いのだろうか? ちゃんと伝える事は出来るんだろうか?
不安な気持ちもあったのですが、毎回、打合せには模型を準備して臨みました。
間取りの話し合いをするときには2.5次元の模型を作りました。 壁の位置や窓の位置が分かるように床から少しだけ壁を立ち上げて、 指でなぞることで間取りを理解してもらったのです。
ご主人の想像力や理解力は私の想定を越えており、その場で的確に把握されているようでした。 キッチンや洗面室のシンクの位置や棚の位置についても、その都度模型で確認してもらいました。
次の打合せまでには奥さんとも共有出来ていて、次のステップ、また次のステップと進んで行くことが出来ました。
もちろん、通常の打合せ回数よりも多いですし、時間も掛かりましたが、無事に完成して喜んでもらう事ができました。 伝える事の努力が報われた気がして、とても嬉しい仕事でした。
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